冒頭から、「最近のシャーロック・ホームズ氏は、ずっとグータラしている」など、何度でも「グータラ」「グータラ」「グータラ」が繰り返される、物語のリズム感。
シャーロック・ホームズのグータラ……ではなく、「「スランプ」」によって、友人ホームズへの思い、また、妻メアリへの思いを深く深く吐露していくワトソン。
友情と愛情についての話だった。
そして、特に説明もなく、たしかイギリス人のはずのワトソンが「鴨川沿い」を歩いて思案をめぐらせるシーンが描かれる小説、それが、『シャーロック・ホームズの凱旋』です。
シャーロック・ホームズの凱旋
導入:大の大人たちが何やっているんだー!! と全力で突っ込みたくなるドタバタ → 次第に深くシリアスな事態に陥っていく…… という展開がとてもスムーズ。
これ以上ないほどの良い友人や、最愛の妻と共に日々を生きていても、長い人生に悩みは尽きず。それでも寄り添い、一緒に困難に乗り越えていこうと前向きな気持ちになれるお話でした。
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ちなみにキャラクターとして有名な「シャーロック・ホームズ」は、イギリスの作家コナン・ドイルが発表した小説が原典です。『シャーロック・ホームズの凱旋』には、原典の事件名やあらすじがわかりやすく散りばめられているので、『凱旋』→原典の順に読むと、きっと楽しいはず!*1
(以下、ネタバレあり)
2024年1月、「シャーロック・ホームズたちは物語の世界に生きる人物である。」と作中で明言され、物語世界とその外側にあるメタの世界の邂逅が描かれる話を、2作続けて鑑賞することになって驚いた。*2
- あと「心霊主義」「ホームズを消そうとする作者」が重要なファクタであるという点も両者に通じている。
- コナンドイルの深い知識がいろんな作品で描かれるようになったのだなあ、と感心しました。
物語世界の存続を否定しない結末は、自分なりの展開予想とは違っていたけど、そっか続けるのだなあ。と思いました。
- オタク文化が栄えるほど「現実を生きなさい」という圧迫も強くなっていく世の中で、これを描けるのは良いコト。
- だから、京都ホームズの物語は今この時も続いているというコト。
「ホームズ×竹取物語」
すごい世界観でした。森見登美彦先生ブラボー!!!- 時が止まった部屋に囚われる人物がモリアーティ教授という展開がドキドキを加速させている。同居人のちょっと変わったおじいさんのまま終わるの? やっぱり正体は犯罪界のナポレオン?
今回はホームズ御一行のメンバーとして登場した、モリアーティ教授とアイリーン・アドラーの設定が面白かった。ふたりとも原典ではほぼ一話限りのゲストキャラクターなんだけど、スランプ状態のホームズと組み合わせると、不思議と「ありそうな距離感……!」と感じられた。
そう、アイリーン・アドラーは本作にも登場するのだが……、彼女にまつわる原典のキラーフレーズ「あの人」をそういう風に使ってくるセンスよ!